ローコスト、新旧をつなぐ
今回のリノベーションの課題のひとつは、「ローコスト」ということだった。
コストを抑えましょう、と言うのは実は簡単で、工事箇所を減らせば当然値段は下がる。
しかし、もちろんそれは問題解決のほんとうの策ではなくて、それではただの”安かろう悪かろう”だ。
求められているものは、少ない予算に対してどれだけ満足度の高いものが創れるか、であり
つまりどのメーカーにも求められる「低価格かつ高品質」という難題なのである。
しかし、私たちのリノベーションは量産品ではない。
原料の大量流通で大幅なコスト削減は見込めない。
国外の工場で生産して人件費を抑えることもできない。
そこでまず私たちは、お金をかけるべきところとかけなくても済むところを選り分けた。
そこには壊すものと壊さないもの、残すものと残さないもの、の慎重な取捨選択が必要になる。
そして、新しくするものと古いままのものがうまく納まるバランスの支点を探らなければならない。
バランスが崩れると、新旧が対立したちぐはぐな空間になってしまう。
予算を抑えるためには、価値観の転換も必要だった。
下地材として使われる合板を仕上げ材にする。
古くても磨けば使える陶器製のものは全て残す。
設備は必要最低限に抑える。
そして最後に、今ではもう生産されていない型ガラスは希少なものとして、
そして「記憶の記録」として、あえて残すことにした。
コミュニティー、老若をつなぐ
この公団に通っていると気づくこと、それは、
敷地内で出会う住民の方の多くが高齢であるということだった。
ある日、エレベーター前の掲示板に、住民の訃報が貼り出されていた。
地方や農村で起こっている高齢化の問題が
この東京のひとつの公団住宅という小さなコミュニティーの中でも起こっている。
高度経済成長期に設立された日本住宅公団により、建設・供給されてきた公団住宅。
当時30代~40代で入居した世代が今ちょうど80歳前後を迎えている。
彼らの子供や孫の世代は、もっと都心に近い新築のマンションに憧れるようになった。
かつての憧れだった公団住宅は老朽化が進み、新築を好む世代にとっての魅力を失ってしまった。
このままでは古い公団は、お年寄りがひっそりと暮らし、ひっそりと亡くなっていく場所に
なってしまうだろう。
ここに新しい世代が入り込み、古い公団を蘇らせることはできないだろうか。
20代~30代の夫婦が子供を育て、子供たちは敷地内で走り回り、
お年寄りは彼らを見守り、時に子育てを助け、そして彼ら自身も活力を取り戻す。
そんな環境ができれば、公団住宅は再びひとつの街として機能するだろう。
そのためにはまず、若い世代の流入が必要だ。
安いだけの古い部屋は若い世代を惹きつけることができないが、
リノベーションによって、公団の一室はここまで変化する。
安くて古い部屋が、安くてかつ魅力的な部屋になるならば、若い世代も公団住宅を視野に入れるようになるだろう。
今回のリノベーションが、そんな老若をつなぐコミュニティー再生のキッカケになることを願う。
Publicity
「ELLE DECO」2009年 06月号
「relife+ vol.1」2009年7月発売
種別 |
リノベーション |
---|---|
設計 |
ルーヴィス |
設計担当 |
福井信行 |
施工 |
ルーヴィス |
施工管理 |
岡部真理 |
計画面積 |
51.48㎡ |
撮影 |
ルーヴィス |
所在地 |
江東区亀戸2丁目 |
企画 |
ルーヴィス |
ディレクター |
福井信行 |